0. 読むのをやめて、数えることにした
机に向かう時間が 1 日 8 時間を超えました。
椅子は職場のもので、替えがききません。でも座面に置くだけのものなら 3,980 円で試せる。
……で、候補のクッションのページを開いたんですが。
レビューが 9,885 件ありました。
とりあえず上から 20 件、下から 20 件読みました。読み終えて、それで何が分かったのか自分に説明できませんでした。星 1 の人は必ず怒っているし、星 5 の人は必ず喜んでいる。当たり前です。
読むのをやめました。
数えることにします。
1.【結論】良し悪しではなく、誰に合うかで分かれる
買っていい人
- 椅子か机の高さを動かせる人
- 沈み込みが合わなければ替えると割り切れる人
やめた方がいい人
- 高さを一切変えられない環境の人
- 硬さの当たりを外したくない人
2. 星の平均は、不満が何件あるかに答えない
IKSTAR 低反発クッション
商品画像はありません。
規約が怖いので、自分で買って撮るまでここは空けておきます。
- ASIN
- B072HG7HNG
- 価格
- 3,980 円
- 総評価
- 9,885 / 4.0
低反発ウレタンの座面クッションです。単価 3,980 円、総評価 9,885 件で平均は星 4.0。
星 3 が厚くて、星 1・2 は合わせて 10% しかない。 壊れた、届かない、話が違う——そういう怒りで埋まっている商品ではありません。
ここで、平均の話をさせてください。
評価数が四桁に乗ると、平均はもうほとんど動きません。今日から星 1 が 100 件付いたとして、4.0 が 3.97 になるだけです。
……100 人が怒って、0.03。
星の平均は、そもそも「不満が何件あるか」に答える設計になっていない。
だから件数を見ます。
3. 数えられるのは、本文付きの 3,210 件だけ
2.44 : 1
星だけ付けたレビューと、文章まで書いたレビューがある。語の検索が届くのは後者だけなので、語の集計はすべてこちらを母数にする。 は 3,210 件。うち星 1〜3 が 932 件で 29.03% でした。これをこの商品の 商品ごとの、星1〜3の割合。商品によって 7% から 30% まで4倍以上ひらく。ここで割って初めて、別々の商品を同じ物差しに乗せられる。 とします。
さっきの星の分布では星 1〜3 が 28% だったのに、ここでは 29.03%。ずれています。
でもこれは誤差じゃありません。母数が違うだけです。
28% は 9,885 件ぜんぶを分母にした割合で、しかも Amazon が四捨五入した数字。29.03% は本文付きの 3,210 件だけを分母にした割合です。
以降で使うのは後者だけ。数える対象が本文付きレビューなのだから、比べる相手も本文付きレビューでないとおかしいので。
ちなみに 9,885 件の評価のうち、本文が付いているのは 3,210 件、32.5% だけ。残りの人は星だけ付けて、何も言わずに立ち去っています。
ここで一つ、確かめておきたいことがあります。
本文を書いた人だけを数えて、それは全体の縮図になっているのか。
星の内訳から、全体の星 1〜3 はおよそ 2,800 件と見積もれます。本文付きの 932 件は、その 3 割強。
高評価側も見てみると、2,278 件でやっぱり 3 割強でした。
本文を書く率は、星の高低でほとんど変わっていない。 少なくともこの商品では、本文付きだけを数えても偏りは持ち込まれません。
その語が出てくるレビューが、低評価にどれだけ偏るか。1.0 なら商品全体と同じ、1.3 なら3割ぶん偏っている。偏りを示すだけで、その語が不満の原因だとは言っていない。 は、その語を含むレビューの Amazon のレビュー絞り込みの「低評価」。星1・星2だけでなく星3も入る。星3を含むぶん、ここでの低評価率は世間の感覚より大きめに出る。 率を baseline で割った値です。1.00 なら全体と同じ。それより大きいほど、その語が出てくるレビューは低評価に偏っています。
| 語 | 件数 | うち星1〜3 | 低評価率 | topic risk |
|---|---|---|---|---|
| 腰痛 | 414 | 117 | 28.26% | 0.97 |
| 硬い | 201 | 70 | 34.83% | 1.20 |
| 柔らかい | 164 | 79 | 48.17% | 1.66 |
| 座高 | 75 | 24 | 32.00% | 1.10 |
4. 三つの語が、別々の方向を指した
硬さの不満が両方向に出ている
「硬い」201 件と「柔らかい」164 件。
表記ゆれを足すと硬さ側 273 件、柔らかさ側 188 件で、比は 1.45 対 1。硬すぎるという声の方がやや多い。ただし、どちらか一方に片付く差ではありません。
そして topic risk は、両方とも baseline を超えました。硬いが 1.20、柔らかいが 1.66。
……同じ商品を、ある人は硬いと言って星を下げ、別の人は柔らかいと言って星を下げている。
片方が嘘をついているわけではありません。低反発ウレタンは、沈み込む量が体重で変わります。 軽ければ沈まずに硬く感じるし、重ければ底まで潰れて支えが消える。
どちらも正直な感想で、どちらも正しい。
腰痛は最大の話題だが、不満には偏っていない
2.71 : 1
「腰痛」は 414 件。 本文が書かれたレビューのうち、その語を含むものの割合。星を付けただけのレビューには語の検索が届かないので、母数は本文付きの件数に取る。 12.9% で、この商品で最も語られている話題でした。
……なのに topic risk は 0.97。baseline とほぼ同じです。不満側にも満足側にも寄っていない。
一番語られているのに、一番どっちつかずでした。
そこで、同じレビューに一緒に出てくる語( 2つの語が同じレビューに両方出てくること。検索窓にスペース区切りで入れると AND 検索になる挙動を使って数えている。 )を数えてみます。「楽」が 57 件、「悪化」が 21 件。 その話題が良い評価語と一緒に出た件数を、悪い評価語と一緒に出た件数で割ったもの。2.71:1 なら、良い側の文脈で語られる方が2.7倍多い。 は 2.71 対 1。
ただし、これが答えているのは「腰痛が治るか」ではありません。**「腰痛と書いた人が、そのあとどっちの語を続けたか」**だけです。
腰痛を目的に買って、何も書かずに去っていった人は、ここに一人も入っていません。
座高は件数が少ないが、後から効く
「座高」は 75 件。件数としては少ない方です。
でも topic risk は 1.10 で baseline 超え。そしてこの 75 件、あとでかなり効いてきます。
5. どれも同じ物性から出ている
数字を並べたら、向きの違う 3 つが出てきました。硬さの不満は両方向。腰痛は中立で、共起は満足寄り。座高はわずかに不満寄り。
バラバラに見えますが、矛盾ではないと思っています。
低反発は沈むから腰が楽になる。厚みのぶん座高が上がる。沈み方が体重に合わなければ、硬いか柔らかいかのどちらかで外す。
全部、同じ物性から出ています。
厄介なのは座高です。
クッションを敷けば座面は数 cm 上がる。でも机の高さは変わりません。肘の角度と肩の位置がずれて、腰が楽になったぶんの負担が、肩と首に移る。
75 件と少ないのは、これが「気づいた人だけが書いた」種類の不満だからだと思います。腰のために買った人は、肩が凝ってもクッションと結び付けないまま終わる。
……ここは数え方から出た仮説で、証明ではありません。共起は因果じゃないし、僕は 3,210 人の体重も机の高さも知りません。
6. 僕なら買う。ただし順番がある
3,980 円で確かめられるのは「沈み方が自分の体重と机に合うか」、その一点だけです。合わなければ硬めに替える。それだけの判断に 9,885 件は要りません。
僕なら買います。
ただし順番があります。先に、椅子か机の高さを動かせるか確認する。
動かせるなら、座高の 1.10 は避けられる不満です。動かせないなら、この商品で得たものを肩で払うことになる。
硬さは……外したら替えるつもりでいます。1.20 と 1.66 が両方立っている以上、当たりを引けるかは事前には分かりません。
7. 迷いは消えないが、迷う場所は分かった
- 本文付き 3,210 件、そのうち星 1〜3 が 29.03%
- 「硬い」1.20 と「柔らかい」1.66 が両方 baseline 超え。不満が一方向を向いていない
- 「腰痛」は 414 件で最多の話題。topic risk 0.97 で中立、共起は「楽」が「悪化」の 2.71 倍
- 「座高」は 75 件と少ないが 1.10。先に机か椅子を動かせるか確認する
数えても、迷いは消えませんでした。
どこで迷っているのかが分かっただけです。
でも、星の数を眺めてため息をついていた時よりは、確実に前へ進んでいます。
このリンクから 34個売れると、僕もこれを1個買えます。
付録. どうやって数えたか
数え方
1. まず読んだ。低評価フィルタの 1 ページ目 10 件を読み、どんな語で不満が語られているかの当たりを付けました。この時点で出てきたのは「座高が上がる」「固い」「柔らかすぎ」「前ずれ」「奥行き不足」など。読んだのは低評価側だけで、10 件です。ここから先の結論には使っていません。語を選ぶためだけに読みました。
2. その語で全件を検索した。商品ページのレビュー検索は、表示こそ 10 件ずつですが、一致件数は全レビューを対象に返ってきます。読める件数と数えられる件数は別です。この記事の数字はすべて後者、一致件数です。
3. 星のフィルタと掛けた。低評価に絞った状態で同じ語を検索し、その語を含むレビューのうち何件が低評価かを出しました。これを baseline(29.03%)で割ったものが topic risk です。
低評価は星 1〜3 です。星 3 を含みます。Amazon の低評価フィルタの区切りがそこにあり、星 3 だけを分離して数える方法がないためです。星 3 は「不満」と「まあまあ」の両方を含むので、この記事の低評価率は不満の割合よりやや大きく出ています。商品どうしを比べる分には同じ物差しなので、順位は変わりません。
硬い・固い・かたい のような書き方のちがい。表記ゆれは足し合わせる。ただし「硬すぎ」は「硬い」の検索に既に含まれるので、足すと二重に数えることになる。 について。表記ゆれ(硬い・固い・かたい)は足しています。「硬すぎ」のような複合形は検索上「硬い」に含まれてしまうため足していません。topic risk は語形ごとに出しており、表内の「硬い」201 件・「柔らかい」164 件はその語形単独の数です。4 節で挙げた 273 件・188 件は表記ゆれを足した概念全体の件数で、こちらの topic risk は取っていません。
この方法で分からないこと。否定形が分離できません。「硬くない」は「硬い」に一致します。だから topic risk は「その語が不満の原因」ではなく、「その語が出てくるレビューは低評価に偏っている」としか読めません。共起語の比はその偏りの中身を推し量るためのもので、文章の意味は判定していません。
保存していないもの。レビュー本文は取得したその場で語の有無だけを記録し、原文は破棄しています。この記事に出る数はすべて件数で、引用は含みません。集計日は 2026-08-24 です。レビューは日々増減するので、同じ数字にはなりません。